『日本人は台湾で何をしたのか』鈴木 満男

タイトルが内容と合ってない。

『わたしが触れた本島人』とか『思い出の台湾―ある社会人類学者の見た台湾の近現代史』でよかったのでは?

正式名称は『日本人は台湾で何をしたのか―知られざる台湾の近現代史』であり、私としては台湾の近現代史と日本人の関わりが知りたくて手に取ったのだが、それらがでてくるのは第四章からだった。
序章はなかなか期待を持たせてくれるのだが、一章から三章までは鈴木氏が社会人類学者として歩んだ道のりや、氏の持論が展開されていて「あれ?これなんの本だっけ?」と何度も表紙を見直した(笑)。
しかも他の学者や日本の教育、東京裁判などへの批判が盛り込まれているので予備知識がないとちょっと読みづらい。
話もあちこちに飛ぶ。

私としては四章以降に出てくる昭和四十四年(1969)に初めて台湾に行き、学術調査や生活の中で触れあった人々から見た日本統治時代の思い出が、もっと詳細に書かれていれば面白かったのにと思う。
個人の視点から歴史を見るというのはミニマムに終わりかねないが、その時代を生きた人々の証言というのは、今を生きる私たちにとって歴史を血の通ったものとして感じられる絶好の教材だからである。

鈴木氏が関わり合いを持ったのが本省人(植民地支配当時は本島人と呼ばれていた)の名家ということで、視点はおおむね本省人側からのものとなっていて、「棚ぼた式に台湾を手に入れた」蒋介石および国民党はシナ人(原文ママ)の悪習を持ち込んだと痛烈な批判をしている。

確かに台湾を知れば知るほど、あそこは中国とは全く違う国だと思う。
その違いを育んだのは50年に及ぶ日本統治時代だとすれば---いや、これは仮定の話ではなく実際そうだと思うが---国民党側の親日派への猜疑心も推して知るべしか。
しかし私には盲目的に日帝時代支配を賛美できない。これはおそらく氏に言わせれば東京裁判以降占領軍が行った洗脳の賜物なのだろう。

不満に思う点はいくつもあるが、台湾に渡り縁を得て実地調査をした鈴木氏が語る当時の空気というのは貴重だ。
外省人の家にホームステイしたいと申し出て断られ、長期調査時決まりかけたホームステイが駄目になり、最終的に落ち着いた埔里の黄望家でもスパイの疑いをかけられ、当主の手厚い保護で再度の渡台が叶う話などとてもドラマチックだ。

考えてみれば台湾は87年までは戒厳令が敷かれていた。
いま私たちが知る、明るい、屈託のない笑顔で笑う人々の背後にはそんな歴史が隠されている。戒厳令が解かれたのはわずか19年前だ。

本書の中で鈴木氏が関わった黄望家(本省人の黄家と平埔族の望家が姻戚関係を結び作った家)の歴史について、非常に興味があるのだがそれについては論文(「“漢蕃”合成家族の形成と発展---近代初期における台湾辺彊の政治人類学的研究」昭和六二年 山口大学文学部刊)にしか書かれていないのだろうか。
手に入れられないか考えている。

なお鈴木氏は2004年に亡くなられているようだ。
ご冥福をお祈りする。
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