『ノンフィクションの現場を歩く 台湾原住民と日本』柳本 通彦
2006.05.30 Tuesday 20:39
わずか100ページあまりのこの本を読んでいて、私は何度も激しく泣き、動揺のあまり何度も本を伏せた。それは私自身が著者・柳本氏には遠く及ばないものの、『親近感の火花を散』らし、『彼らと、台湾と離れられなくなった』人間だからだろう。
本の中の登場人物と私が出会った人々がダブる。
私の場合親しくなったのがおじいさん達だったので、“高砂義勇隊”として出征した花蓮三勇士のくだりは、誇り高く、勇敢で実直な彼らが、日本の敗戦後どのような思いを胸に生きてきたのかを考えるだけで、感情が高ぶり涙がどっとあふれ出る。
彼らは幼い頃から日本人として生きてきた。そして終戦で突然中華民国の民にされた。
「お国(日本)のため、天皇陛下のために死ね」と言われていたのに、故郷に戻ったら漢族風の名前を与えられ「お前らは中華民国の国民だ。日本語は喋るな」と言われたときはどんな気持ちだったのだろう?
タイヤル族の詩人、ワリスノカンさんの叔父さんも復員してから5年間は山にこもり、一人で戦時と同じジャングル生活を続けていたという。
日本人として育てられた彼らににとって、靖国神社は当然故国(日本)の為に闘った英霊が眠る場所だ。
彼ら花連三勇士が靖国に参拝するくだりは重い。
そんなタイムカプセルの中に入ったような“純化された日本人”である彼らに対して、日本が取った仕打ちは惨く、軍属の給料として貯金していた郵便貯金も長らく返さずにいた。
返すときも物価の上昇率が7000倍なのに、日本政府が出した金額は120倍だという。
柳本氏は語る。
金が問題なのではなくて、日本人に認めてほしいわけです原住民は誇り高い。
彼らがこんなにも日本を、日本人を慕ってくれているのに、私たちはそれに応えられていない。
私にとって慰安婦にされた原住民女性の話は衝撃だった。
あるだろう、確かに可能性としてはあるだろう。しかし私はそれを今まで考えたことがなかった。情けない。
警官が権力を笠に着て、優秀で聞き分けのよい娘達を辱めた。
戦後そういった経緯で残された子供もいる。
「オバサンのオトウサン、ニホンジン」
そういえば、そう話してくれたおばあさんもいた。
「ナツカシイネェ。ニホンゴ。モウ忘スレタヨ」
彼女は私と話しながら、何度も目頭を押さえていた。
もしかしたらあのおばあさんも?
それ以前に政策として日本人警官と村の有力者との結婚もあったそうだが、それを確かめるのは怖い。
ご主人が出征していることを持ち出され『お前たちの夫は命を陛下にささげて戦っているのに、お前は自分の身体もささげられないのか』と言われ、軍人に身を任せた銃後の妻もいる。
彼女たちは、戦後復員してきた夫にもそのことを話せず、長く罪悪感に苦しんだという。
台湾少年工のことも知らなかった。
彼らは優秀であったが故に選ばれ、日本の軍需工場に送られ、戦争の中逃げまどい、多くは遠く日本で若い命を散らした。
生き残った人たちは「高座会」という組織を結成し、今も日本と交流しているが、未払い賃金を求めたりはしないという。
エリートの誇りか。
読んでいて思うのは後悔ばかり。
「あと10年、いや、せめて5年早く村に行っていれば……」
もちろんジャーナリストでもなんでもない私が行ったところで、彼らの問題を解決する手伝いができるわけではないけれど、一緒にお酒を飲みながら話をするだけでも、冥途に旅立とうとしてる老人たちの慰めになったのではないだろうか?
終戦時子供だったおじいさん達ですら、いろんな思いを胸に抱えている。出征した人たちはきっともっとお辛かったろう。
もちろん阪神大震災の時のエセボランティアのように「聞いてあげるから話しなさい」というのではなく、年寄りが集まれば昔の話になるし、それを「はぁ、はぁ」と日本人である私が聞いてあげるだけでもちょっとは慰めになったかもしれない。
そんなことを思っても、もう遅い。
柳本氏が出会った花連三勇士もすでに2人は鬼籍に入った。
時は無情に過ぎ、年寄りは死んでいく。
せめて縁あって知り合ったお年寄りが心に溜めた辛い思いを聞いて差し上げる、彼らが生きてる間にできるだけ会いに行く、そのぐらいしか私にはできない。
この本は2004年にかわさき市民アカデミーで行われた連続12回の講座のうち台湾原住民に関する2回をまとめたもので、話し言葉で書かれているが台湾原住民と日本との関わりに興味を持たれた方にはぜひ読んでいただきたい一冊である。
注※ 文中の『』(および引用タグ内)は本文より引用したものです。
柳本通彦氏が台北代表を務めるジャーナリスト集団アジアプレス
アジアプレス
アジアプレスネットワークβ版





comments
当然あると思っていたことだったのですが、それが想像していたよりも過酷であったことが明確に描き出されていて、「やっぱりそうか」と思いながらも、心が痛んだものです。女性の皆さんの証言の重みに耐えきれなくなりそうにもなりました(だから、僕には簡単に「日本の支配は良かった」とは言えない)。
あと、もうご存じかもしれませんが、氏も翻訳に関わっている草風館のシリーズ『台湾原住民文学選』も素晴らしいものです。重たいものも多い(価格も割高)ですが、是非、ご一読下さい。お勧めです。
『台湾先住民・山の女達の聖戦』も手配済みなのでまもなく読めると思います。
私はおじいさん達と仲良くなったので高砂義勇隊の本ばかり読んでて、『~山の女達の聖戦』はスルーしちゃってたんですよ(-_-;)
『台湾原住民文学選』は高いので、とりあえず図書館で借りて読みます!
jingさんはこのような人々と会っているのか~う~む、と読みながら想像上のドキュメンタリーを脳内で上映してしまいました。
数年前に元日本兵の方達が来日してヤスクニ参拝と戦後の処遇に政府へ抗議している映像など記憶があります。巷の冷たい反応も。
著者は霧社事件も先駆けて取材してるのですね、今まで意図的に読むのを避けてきたかも。
でもそんな楽しい雰囲気の中にも重い話が飛び出てくるときがあって、気を抜けません!
靖国参拝は高金素梅が引き連れてきた2005年のやつ?
あれはどう見ても政治的なパフォーマンスに原住民を利用したとしか思えません。あの人のアイデンティティは外省人でしょう。怒・怒・怒!
霧社事件は私もずっと避けてきたんですが、最近興味を持って読み始めました。